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高岡簡易裁判所 昭和48年(ろ)51号 決定 1973年9月17日

少年 D・O(昭二八・一一・二五生)

主文

本件を富山家庭裁判所高岡支部へ移送する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、所轄警察署長の許可を受けないで、昭和四七年一一月二〇日午後四時一五分ころ、射水郡○○町××××××番地先道路において場所を移動しないで、軽四輪貨物自動車を改造した露店を出したものである。

(証拠の標目)編略

(審理の結果)

被告人は、本件公訴事実を認め、その実情として同人は、昭和四四年ころから射水部○○町○○において、○○商事の屋号で露店商を経営している○辻○輔(以下単に(A)と略称)方に住込んで勤めてから今日に至つている旨供述しているところ、前掲各証拠を総合すると次の事実が認められる。

一  (1) (A)に対する食品衛生法違反、道路交通法違反各被告事件は略式命令により、罰金二万円に処するの裁判が当裁判所において昭和四八年六月一八日発布、同年八月一日確定した。

(2) 右判示事実によると、被告人(A)は、富山県知事の許可を受けないで、○○商事なる屋号で営業車三台を有し、移動飲食店を営むものであるが、判示第一、(三)によると、(A)は本件被告人である従業員D・Oと共謀の上、昭和四七年一一月一五日ころから同年二〇日ころまでの間、射水郡○○町×ケ××××番地○○農協倉庫前路上において、右D・Oをして「たこ焼」を製造販売させ、もつて飲食店営業を営んだものである旨判示され判示第一の(一)の事実は従業員○畑○儀と、同第一の(二)の事実は従業員○崎○男と各共謀し、右判示同旨の事実が確定している。そうすると、(A)に対する前記確定した略式命令の既判力の外部的効果として、未だ起訴されていない道路の無許可使用による道交法違反罪の事実は、右判示第一の(一)から(三)までの事実に包含されていて、(A)に対しては未だ起訴されていない道交法違反の事実とは、刑法五四条前段の一所為数法の関係に立つて、再訴が許されないものと解する関係にある。

二  (1) 被告人の雇主(A)は、自己の経営する露店商に関する限り、一切の責任を(A)が負うものであり、その責任を痛感している旨供述しているから、道義的責任は(A)にあるものと認められるので本件の場合わざわざ被告人のため道交法一二三条所定の両罰規定を適用するの余地がないとはいえないが、これを適用することは極めて苛酷といわねばならないと考える。

(2) そこで本件事実の実態は、被告人は(A)に雇われ、日給制、歩合増の約束で、(A)が経営する露店商に従事しているもののところ、被告人には自動車の運転免許を有していないため、本件改造済の軽四輪自動車を(A)の従業員で、運転免許の保有者である○塚○よ○に運転して貰い、しかも右○塚および被告人は(A)に案内され(A)の指示された場所に至り、右改造車に積み込まれた一切の資材を利用して「たこ焼」業に従事していたことが認められる。こうした自然的、社会的事実を捉えると、被告人は(A)に露店営業の場所を指示された際、あえて道交法七七条所定の道路使用許可を受けるの適法行為に出ることを被告人に期待ができるであろうか? 被告人にして道路の無許可使用を拒みまたは(A)の指示によらずして許可を受けるの措置を講じた場合被告人の職を失うの可能性のあることは窺知するに難くない。こうした観点からして、被告人の法規遵守は期待し得ないものと解される事情にある。

三  被告人はこれまでに、富山家庭裁判所高岡支部で道交法違反の少年事件で、不処分になること三回、当裁判所で道交法違反被告事件で罰金刑に処せられること二回の前科、前歴を有し、未だに改化遷善の実を挙げることができず、反規範的行為を繰り返していることは遺憾の極みである。

こうした非行少年として、数回に亘り家庭裁判所へ送致される原因は、被告人の職業および身分関係、すなわち露店商(A)との主従関係によるものと解され、今のところ、被告人の恵まれない環境から生ずるものであるが、それにしても少年である被告人は、(A)の従業員として(A)方に住み込み、その月収の殆んど半ば位を、別居の未亡人である実母の扶養費に充当している点は、拱手傍観すべきでないと解する。

また、同僚従業員で、しかも成人である前記(審理の結果一、(2))○畑○儀が、被告人同様の犯罪を犯しておりながら、不問にされている以上、その処遇の均衡をも考えるのが必要であるものと解せざるを得ない。

なお、検察官は、本件を富山家庭裁判所高岡支部へ少年事件として送致に際し、刑事処分を求めず、「しかるべき処分」を求めるの意見を述べている。

四  叙上の諸事情を勘案すれば、被告人の社会生活上の行動は、「是・非」相半ばするの憾あるが、被告人は少年なるが故に、今一度これらの事情を特に有利の情状として考慮に容れるべきものと解されるので、当裁判所は、この際、少年法の精神に則り、保護処分優先主義の見地に立つて、同法の趣旨、目的および刑事政策の本議に副うよう、被告人のため同法五五条を適用し、被告人を保護処分に付するを相当と認め、主文のとおり決定する。

(裁判官 桜井伊三郎)

受移送決定(富山家裁 昭四八(少)一〇六三八・一〇六六六・一〇七五七号 昭四八・一一・二二決定)

主文

少年を富山保護観察所の保護観察に付する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、

第一 所轄警察署長の許可を受けないで、昭和四七年一一月二〇日午後四時一五分頃、富山県射水郡○○町×ケ××××番地付近道路において、場所を移動しないで、露店、屋台店その他これらに類する店(軽四輪貨物自動車を改造したもの)を出した、

第二 公安委員会の自動車運転免許を受けないで、

一 同四八年八月二七日午前一時七分頃、高岡市○○町××番地付近道路において、軽四輪乗用自動車(8富ゆ一三一五号)を運転した、

二 同年一〇月一五日午前一時三〇分頃、富山県射水郡○○町○○×××番地付近道路において、上記一記載の車両を運転したものである。

(適用法令)

少年の判示第一の所為は道路交通法一一九条一項一二号、七七条一項三号に、第二の各所為は同法一一八条一項一号、六四条にそれぞれ該当する。

(処遇意見)

少年は昭和四四年三月高岡市立○○中学校卒業後、二、三の職場を移り変わり、同四五年四月頃から○○商事株式会社(露店商)に就職し、タコ焼等を売りながら現在に至つているものであるところ同会社に勤めてからは仕事も熱心で上司からも信頼されているものの、その頃からいわゆる無免許運転を繰り返すようになり、過去において前後四回にわたり当庁に係属し、検察官に送致する旨の決定等に付されているにもかかわらず、同四八年二月頃判示第二の各非行の際用いた軽四輪乗用自動車を購入して仕事が終つたあと、食事や入浴に出かける際等に無免許で運転を続けていたものである。

少年は現在、K・M子(昭和二八年一二月一二日生)と肩書住居地において、同棲し、近い将来法律上の夫婦になることが決つており、同女が自動車の運転免許を有しているので、従前のようにひんぱんに無免許運転を繰り返すおそれは減じているものの、そのおそれは皆無とはいい難いうえ、少年は間もなく成年に達するものであるが、父は既に死亡し母も少年を今後十分に指導、監督しうるかどうかが疑問であり、以上の各事実その他少年調査票ならびに事件記録によつて明らかな少年の資質および環境に鑑み、少年を今後相当期間にわたり専門機関による保護育成をはかる必要があるので少年法二四条一項一号、少年審判規則三七条一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 佐野正幸)

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